「うちジュリちゃんのこと守れるっちゅーねん! おとんのどあほうっ!」
とリーナにぽかぽかと殴られて苦笑しながら、リンクは手に持っていた紙をリュウに渡した。
それには師弟の組み合わせが書かれている。
ジュリを除くそれを発表したあと、リュウが傍らに立っていたジュリの頭に手を乗せて続けた。
「それから俺の娘たちに加えて、この俺の愛猫・キラそっくりな絶世の美少年に手ぇ出したヤロウは俺自ら死刑にしてやっから覚えておけよー」
そんなリュウの言葉に顔面蒼白してしまうハンターたち。
だが、
「えっと…、僕はジュリです。皆さん、これからよろしくお願いします」
とジュリが破顔一笑した途端、その顔らは赤く染まり。
20人以上が鼻から流血。
10人以上が魂を抜かれたように卒倒につき、K.O。
「じゃー、おまえら師弟の組み合わせ決まったんだから早速働いて来い」
なんてギルド長に命令されても、その場から動けないハンターたち。
その傍らでジュリの師匠決めが始まった。
リュウが言う。
「まず師となる者は一流ハンター以上だ。だが、副ギルド長は何かと忙しいから除く。よって、俺かシュウ、サラ、リン・ラン、カレンの中から選ぶわけだが……」
うんうんと頷く、名を呼ばれた一同。
「ま、議論するまでもなく俺に決定だな」
と言ったリュウに、カレンがすかさず突っ込んだ。
「お義父さまのところが一番ダメだと思いますわ」
「んだとコラ」
「何でもかんでもジュリちゃんにあまあまなお義父さまの弟子になってしまったら、成長するものもしませんわ。よって、ジュリちゃんはあたくしの弟子にしますわ」
「いや、待てカレン」とシュウが苦笑した。「おまえは自分の身を守るだけで精一杯だろ? まあ、切れたときは別としてさ…。だからジュリはオレの弟子にするよ」
「いやいやいや!」と、慌てたように声をあげたのはリン・ランだ。「そんな、兄上の手を煩わせませんなのだ! ジュリの世話はわたしたちが見ますなのだ!」
「いや、あんたたちじゃまだまだ心配だよリン・ラン」と、サラ。「この中じゃアタシが一番厳しくできるだろうし、アタシがジュリの師匠になるよ」
「いやいや、サラ」とリュウ。「おまえもまだまだ心配だ。ジュリを誰よりも守れるのはこの最強の父上だ。おまえは自分が怪我しないよう、細心の注意を払ってればいい。ていうかジュリに厳しいのは困る」
リュウとシュウ、サラ、リン・ラン、カレンの顔を見回すジュリ。
議論はだんだんと熱くなり、ギルドの中に怒声が響き始める。
「ああもう、うるせえっ! ジュリの師匠はこの俺だ!」
「お義父さまが一番ダメだと言っているのですわ!」
「カレン、おまえは自分の身を守ってろって! ジュリはオレの弟子でいいだろ!?」
「いやいや兄上っ! わたしたちがジュリの面倒見るから兄上は楽してくださいなのだ!」
「だからあんたたちじゃ心配だって、リン・ラン! アタシが適任だよ、アタシが!」
議論は口論となり、おろおろとするジュリ。
その大きな黄金の瞳に涙が溜まっていく。
「ち…、父上、兄上、姉上、カレンさんっ…! け、喧嘩しないでくださいっ……!」
と言ったものの、熱くなっているその者たちの耳には声が届かず。
ますます涙が込み上げ、
「ふみっ…、ふみっ……!」
と、しゃくり上げ始めたジュリ。
ここでようやくそれに気付いたリーナ。
「――ジュ、ジュリちゃっ……!」
と顔面蒼白し、慌てて喧嘩している一同の身体をどつく。
「ちょ、ちょお、もう喧嘩やめぇや! ジュリちゃんが……!!」
ジュリが?
と、眉を寄せてジュリに顔を向けた一同。
リーナに続いて顔面蒼白した。
「ジュ、ジュリ、落ち着け! ジュリ!」
と慌てて声をあげたリュウだったが、もう遅いと判断してユナとサラを腕に抱く。
続いてシュウがカレンを、レオンがリン・ランを、リンクがリーナを腕に抱いた。
そして次の瞬間、
「ふみっ…ふみっ…、ふみゃああああぁぁああぁぁああぁぁああぁぁああぁぁああぁぁああぁぁあああぁぁあぁぁあぁぁぁあああんっ!!」
ギルドの外まで響き渡って行ったジュリの泣き声。
それと同時に爆発した、ジュリの中の魔力。
その破壊力、そこらの超一流ハンター顔負け。
受付の窓は粉砕され。
椅子やテーブルは破壊され。
出入り口のドアは葉月町を行き交う人々目掛けて発射され。
まだその場にいたハンターたちは構えていなかったものだから吹っ飛ばされ、そして壁にめり込む。
おまけに、ギルド内にいる者全ての耳がキンキンと痛む。
「ああもうっ、あんたらのせいやで!」と、リーナは喧嘩をしていた一同を睨み付けたあと、必死にジュリを宥める。「大丈夫やで、ジュリちゃん! みんな喧嘩なんかしてへんから! ほら見てみぃ、みんなにこにこしてんで!?」
と言われ、リュウやシュウ、サラ、リン・ラン、カレンの顔を見回すジュリ。
にこにこと笑っているその顔たちを見ながら泣き止んだ。
よって、嵐になっていたギルド内が静まる。
「わあぁぁあぁぁあ! おっ、おまえら大丈夫かいなぁぁあぁぁあぁぁあ!?」
とリンクは壁から床へと転がり落ちたハンターたちに駆け寄り、
「オレ一般人に怪我させてねーか見てくる!」
シュウは慌ててドアが吹っ飛んでいったギルドの外へと向かう。
一方、ジュリはギルドの中を見回して再びおろおろとしてしまう。
「み、皆さん血出してどうしたんですかっ? 大丈夫ですかっ?」
「そんなに心配してやらなくても大丈夫だぜ、ジュリ」と、ジュリに笑顔を向けたのはリュウ。「こいつらみぃーんな、壁にめり込んで遊んでただけだから」
「そうなんですかっ?」
「ああ、そうだぜ」と言ったあとに、ハンターたちに笑顔を向けたリュウ。「なあ、そうだろ?」
その笑顔の意味:同意しないと殺ス。
「も…、もちろんです、ギルド長」
と顔面蒼白しながら答えたハンターたち。
それを聞いたジュリが安堵して笑顔になった。
「わぁ、壁にめり込む遊びなんてあるんですね! ジュリはまた1つお利口になりました、父上!」
「ああ、そうだなジュリ」
とにこにこ笑っているリュウに溜め息を吐いたあと、リーナはジュリの手を取った。
「あんたら揉めるから、うちがジュリちゃんの師匠になるわ」
意義ありと再び騒ぎ始めるリュウとシュウ、サラ、リン・ラン、カレン。
それを見ながら、リーナが再び溜め息を吐いた。
「ほな誰の弟子にするん? 一流以上のあんたら、そうやってすぐ喧嘩しよって、またジュリちゃん泣かすだけやん」
「う……」
と、言い返せず黙るリュウたち。
「ジュリちゃんのことなら心配すんなや。うち、瞬間移動持ってんねんで? いざとなったらすぐに逃げるっちゅーねん」
「でも――」
「ほな」と、リュウたちの言葉を遮ったリーナ。「ばいなら」
にやりと笑い、ジュリを連れて瞬間移動でその場から消え去って行った。
「古っ!!」
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